兄ちゃん(3)

トスカーナの朝
トスカーナの朝

私が両親に心配をかけながら、アニメーターとして、上京して2年位した頃だったと思います。
国立大の工学部の卒業を控えた兄ちゃんから
「話がある。」
との事。
就職が決まったとか、凄く良い話を想像していました。
住んでいたアパートの近所にあった、今は無き「スエヒロ5」というファミレスで話を聞きました。
そこのステーキランチが好きでしたが、駆け出しのアニメーターには高級品でした。
「やりたい事ができた!」
「それは良かった!どこに就職して、何をやるの?」
「いや、就職はしないで、俳優になりたい。ついては、お前のアパートに一緒に住まわせてくれないか?」
「、、、、。」
先ず、俳優になるために養成所に何年間か通い、それから俳優にと云うことらしい。
ただでさえ親に心配をかけているというのに、兄弟揃って将来の分からない不安定な世界にと思うと、言葉になりませんでした。
しばらくして、兄は凄いオーディオと留守番電話を持ってやって来ました。
15歳で家を出てから久しぶりの兄との同居は楽しく快適な事ばかりではありませんでした。