原点とは(2)

あの日は忙しい日でした。

 

学習塾の仕事を終えてアパートに戻り

漫画の仕事とK談社のデビュー作になるはずのネームの仕事をしていました。

 

いつもみんな静かに暮らしている石神井のアパートです。

斜め下の部屋で暮らしている俳優の卵のような兄は留守。

真下に済んでいる女性は珍しく騒がしい感じでした。

 

集中しての作業でしたが、下の部屋の騒がしさが気になりすぎて

「うるせーよ!馬鹿やろー!」

と窓を開け怒鳴ってしまいました。

 

静かにもなり、仕事にも集中でき、一段落したのは午前4時ごろだったと思います。

「6時まで2時間だけ飲みに行こう!」

と西荻のLA EXPRESSに自動車で出掛けました。

 

当時は今ほど飲酒運転は厳しくなくて、飲んでもへっちゃらで運転してしまっていました。

今考えるとホントに恐ろしい事していたなと反省しています。

 

いつもの通り2時間だけ飲んで車で戻ってくると警官に呼び止められました。

「あ、やばい」と思って運転席の窓を開けました。

「滝浪君だね」「はい。」

あらら、飲酒運転でつかまるのか?と思っていると

「アパートの君の部屋が火事だよ。」

「!!!!!!!!!」

 

アパートの窓は開いていて中は真っ黒。

慌てて階段を駆け上がると、

天井が焼けて抜け空が見えてしまっている黒焦げの部屋は

既にドラマのような現場検証状態でした。

「かなり激しく燃えたみたいだね」

スプレー系の塗料やママさんバレーのコーチをやっていたために

バレーボールが爆発したりしてかなり激しかったらしい。

 

そこで現場検証している人と話をすると、どう考えてもタバコの消し忘れが原因でした。

私もそう思いました。

「私はこれからどう償っていけばいいのでしょうか?」

とその目の前の方に聞いてみたところ

「まあ、やれる事をやっていく事しかないでしょうね。」

とこれまたドラマのワンシーンみたいな事を言われたのを覚えています。

 

翌日から片づけやら迷惑をおかけした人への挨拶やら忙しくなりましたが、

特にバツが悪かったのは前日怒鳴ってしまった下の部屋の女性への謝罪でした。

消防活動により濡れてしまった電話の弁償と布団のクリーニング代金で勘弁していただきました。

 

片付けはアニメーターの友達が皆手伝ってくれました。

その内のひとりSさんがトマトを買ってくれてきて、

焼けて空が見える部屋で皆で畳の片付けなどをしながら食べた

トマトの味がやけに清清しかったのを覚えています。

 

つづく

 

ともしび F0
ともしび F0